ふるさと納税は2019年6月以降、「総務大臣が基準に適合した自治体を指定し、指定を受けた自治体への寄附だけが特例控除の対象になる」という指定制度のもとで運用されています。制度の全体像や控除の仕組み・2025年10月のポイント禁止は姉妹記事ふるさと納税はどう変わったかで整理しました。本記事はその一段深い論点、すなわち「指定制度の基準」と「指定取消が寄附者に及ぼす影響」に絞って、泉佐野市の最高裁判決から2025年の4自治体取消までを実務家の視点で解説します。
ふるさと納税指定制度とは(3つの基準)
指定制度は、2019年3月の地方税法改正により導入され、2019年6月1日以降に支出された寄附から適用されています。それまで返礼割合の是正は総務大臣の「通知」に頼っていましたが、通知には法的拘束力がなく、従わない自治体が残り続けました。そこで、総務大臣が基準に適合すると認めた地方団体だけを「ふるさと納税の対象」として指定し、指定を受けていない自治体への寄附は特例控除(住民税からの控除)の対象外とする仕組みへ切り替えたのが指定制度です。
指定を受けるための主な基準は次の3つです。
- 返礼割合が3割以下であること——返礼品の調達費用が、寄附額の3割を超えないこと。
- 返礼品が地場産品であること——その地域で生産・製造された物品等であること。他地域の産品を返礼品にすることは原則認められません。
- 募集を適正に行うこと(募集経費5割以下)——返礼品調達費・送料・仲介サイト手数料・受領証発行費などの募集経費の総額を、寄附額の5割以下に抑えること。
このうち募集経費5割の基準は指定制度の当初から募集適正化基準の一部でしたが、2023年10月の告示改正で「経費」に算入すべき費用の範囲が拡大されました。従来は寄附受領後に発生する事務費(ワンストップ特例事務や受領証の発行費用など)を経費に含めない自治体がありましたが、改正後はこれらも含めて5割以下でなければならないと明確化され、実質的に基準が厳しくなっています。後述する2025年の取消事案の多くは、この5割基準の超過が理由でした。
指定は自治体からの申出に基づき、通常1年単位(例年10月1日から翌年9月30日まで)で更新されます。基準に適合しなくなった場合、総務大臣は指定を取り消すことができます。

指定を外れると寄附者はどうなるか
寄附者にとって決定的に重要なのは、指定を受けていない自治体へ寄附しても、ふるさと納税の特例控除は受けられないという点です。ここは制度の理解を誤りやすいところなので分解して整理します。
ふるさと納税で「実質2,000円」の負担で済むのは、寄附金控除(所得税・住民税の所得控除/税額控除)に加えて、住民税の特例控除が上乗せされるためです。指定制度で対象外になるのは、まさにこの特例控除の部分です。指定外の自治体への寄附は、地方公共団体への一般的な寄附として所得税・住民税の基本的な寄附金控除の対象にはなり得ますが、ふるさと納税特有の「自己負担2,000円で済む」効果は失われます。
具体的に見てみましょう。指定を受けた自治体へ10万円寄附し3万円相当(3割)の返礼品を受け取った場合、上限内であれば自己負担は実質2,000円で済み、差し引き大きなメリットが残ります。ところが指定外の自治体へ同額を寄附すると、特例控除がないため自己負担が数万円規模に膨らみ、返礼品を差し引いても手元がマイナスになりかねません。「同じ寄附額・同じ返礼品でも、指定の有無で経済効果がまったく違う」——これが指定制度の実務上のインパクトです。
なお、指定取消は将来に向かって効力を生じるのが原則です。取消の効力が及ぶのは取消日以後の寄附であり、それより前に、その自治体が指定を受けていた期間内に行った寄附については、通常どおり特例控除の対象になります。取消のニュースを見た寄附者が「過去の寄附まで否認されるのでは」と不安になる必要は基本的にありません。問題になるのは、あくまで取消後にその自治体へ寄附した場合です。
指定取消の実例——泉佐野市の経緯と2025年の4自治体
制度の運用を語るうえで避けて通れないのが、大阪府泉佐野市をめぐる訴訟です。泉佐野市は高額な返礼品と多額のポイント還元で突出した寄附額を集めており、2019年の指定制度スタート時、総務大臣は同市を「不指定」としました。根拠とされたのは、制度施行前の過去の募集実績を理由に指定適格性を欠くとみなす総務省告示の基準でした。
これに対し泉佐野市は争い、2020年6月30日、最高裁は市側を勝訴させました。最高裁は、施行前の募集実績それ自体をもって不指定とできるとした告示の基準について、地方税法の委任の範囲を逸脱した違法・無効なものと判断したのです。過去の実績で将来の指定資格を一律に奪うことは、本来立法で手当てすべき政策判断であり、告示(総務大臣の裁量)で行うのは適当でないというのが要旨でした。この判決を受けて泉佐野市などは制度に復帰しています。制度の建て付けそのものに司法のチェックが入ったという点で、指定制度の限界を示す重要判例です。
一方、基準そのものへの明確な違反があれば取消は淡々と行われます。2025年9月30日付で、総務省は4つの自治体の指定を取り消しました。
- 岡山県総社市——コメの返礼品で調達費が寄附額の約46%に達し、返礼割合3割以下の基準に違反。
- 佐賀県みやき町——募集経費の総額が寄附額の約60%に達し、経費5割以下の基準に違反。
- 長崎県雲仙市——募集経費が約56%となり、経費5割基準を超過。仲介サイト1社分の経費を計上し忘れて国に約49%と過少報告していた経緯も指摘されています。
- 熊本県山都町——募集経費が約56%となり、経費5割基準を超過。
これらの自治体は取消日から2年間、再指定を受けられません。総社市は返礼割合、他の1市2町は経費5割基準という、指定制度の中核ルール違反が理由である点が特徴です。泉佐野市のケースが「制度の建て付け」を問うたのに対し、2025年の取消は「基準への実体的な違反」であり、司法で覆る性質のものではありません。
税理士の視点——寄附者が確認すべきことと駆け込みの注意
指定制度は、寄附者の側に「寄附先が現に指定を受けているか」という確認責任を事実上生じさせました。制度趣旨に照らせば、寄附者は返礼品の豪華さよりもまずその自治体が指定対象かどうかを確かめる必要があります。
実務上おさえておきたい論点を整理します。
第一に、ポータルサイトに掲載されている自治体は原則として指定を受けているとみてよいものの、指定は毎年更新され、期中に取り消されることもあります。取消直後に情報が更新されていないケースはゼロではないため、報道で取消が伝えられた自治体への「駆け込み寄附」は避けるのが安全です。取消後の寄附は特例控除の対象外になり、実質2,000円の前提が崩れます。
第二に、取消の効力は将来に向かうのが原則であり、指定期間内の寄附まで遡って否認されるわけではありません。過去に取消自治体へ寄附した方は、その寄附が指定期間内であれば通常どおり控除を受けられます。過度に不安がる必要はありません。
第三に、指定制度は純粋な応援目的の寄附にも網をかける点で批判もあります。返礼品目的でなく地域を応援したいだけの寄附であっても、指定外自治体への寄附は特例控除の対象外です。徴税実務上、寄附の動機まで区別できない以上やむを得ない設計ですが、「応援したい自治体が取消を受けている」場合には、ふるさと納税ではなく通常の寄附金控除の枠で対応するしかない、という限界は理解しておくべきです。
泉佐野市の最高裁判決が示したように、指定制度は総務大臣の裁量に一定の司法チェックが及ぶ制度です。基準そのものは今後も改正が重ねられる可能性が高く、寄附者・実務家ともに「その年の基準と指定状況」を都度確認する姿勢が欠かせません。
実務家のアクション
- 寄附前に、寄附先自治体が現に指定を受けているかを総務省の指定団体一覧またはポータルサイトで確認する。
- 取消が報道された自治体への取消日以後の寄附は避ける(特例控除の対象外になる)。
- 過去に取消自治体へ寄附した相談者には、指定期間内の寄附なら控除は有効である旨を案内し、不要な不安を解く。
- 純粋な応援目的で指定外自治体へ寄附する場合は、実質2,000円の効果が得られないことを事前に説明する。
- 控除の仕組み・上限額・2025年10月のポイント禁止など制度全体はふるさと納税はどう変わったかで整理しておく。
出典
- 総務省「ふるさと納税に係る指定制度について」
- 総務省 自治税務局「基準違反事案について(ふるさと納税)令和7年6月6日」
- Westlaw Japan「いわゆる「ふるさと納税」における不指定取消訴訟最高裁判決(令和2年6月30日)」
- ふるさと納税総合研究所「ふるさと納税の対象となる地方団体の指定の取消しと理由」