「AIといえばChatGPT」という時代が、データの上で終わりました。TechCrunchが報じたSensor Towerの調査で、ChatGPTの市場シェアが初めて50%を割ったことが確認されたのです。複数のサービスが並び立つ市場では、「みんなが使っているから」はツール選定の理由になりません。事務所として何を基準に選ぶかを考えるタイミングです。
何が起きたのか
TechCrunchが2026年6月16日、Sensor Towerの「State of AI Report 2026」をもとに報じた内容によると、2026年5月末時点の生成AIアシスタント市場は次の構図です。
- ChatGPT:月間アクティブユーザー11億人、シェア46.4%。1月までは50%超を維持していたが、初めて半数を割った
- Gemini:6億6,200万人、27.7%。Googleのツール群への統合を追い風に最も勢いよく伸長
- Claude:2億4,500万人、10.3%。生産性用途での評判を武器にユーザーを積み上げ
- Grok・Perplexityなどその他:各5%未満
規模ではChatGPTが依然圧倒的ですが、報告書は「ユーザーは複数アシスタントの使い分け・乗り換えにますます積極的になっている」と指摘します。象徴的なのは、OpenAIが2月に米国防総省との契約を発表した際、アプリのアンインストールが295%急増した事実です。機能だけでなく、ブランドへの信頼や価値観との一致がユーザーの選択を左右し始めています。
収益化の動きも対照的です。OpenAIは2月からChatGPTへの広告配信を開始し、5月時点でデイリーユーザーの17%に広告が表示されています。一方、Claudeは有料プラン転換率13%で業界首位。市場全体では2026年上半期にダウンロード23億件、アプリ内課金42.2億ドル(前年同期比130%増)と、市場拡大と収益化が同時に進んでいます。

※本記事の初出時は調査元をSimilarwebと記載していましたが、TechCrunchの記事が依拠しているのはSensor Towerの「State of AI Report 2026」であるため訂正しました。
背景 ―― なぜ今なのか
シェア変動の背景には、各社の獲得経路の違いがあります。Geminiは検索・Gmail・Workspaceという既存のGoogle製品への統合で「わざわざ選ばなくても使い始めている」ユーザーを取り込み、Gemini 3.5 Flashの即日全面展開のようにその統合を加速しています。Claudeは企業向けAPIと生産性ユースケースに集中し、少数でも課金するユーザーを積み上げる戦略です。
もう一つの背景は収益化フェーズへの移行です。値上げしても顧客が離れないことを各社が確認し、広告・課金・エンタープライズ契約と、それぞれ異なるマネタイズの形が明確になりました。無料ユーザーには広告、業務ユーザーには課金という分化は、業務利用者にとって「無料版をそのまま仕事に使う」ことのリスクが一段上がったことを意味します。
税理士の視点で読み解く
①広告付きChatGPTの業務利用は再考すべき局面。 デイリーユーザーの17%に広告が出ているという事実は、無料版の出力環境が「中立な道具」から「広告メディア」に近づいていることを示します。広告モデルの宿命として、表示内容・推薦の中立性には構造的な疑問が付きまとい、業務の意思決定に使う情報経路としては筋が悪くなります。業務利用は有料・法人プランに揃えるのが原則です(データの学習利用設定の観点からも同様です)。
②有料転換率13%という数字はツールの「業務適性」のシグナル。 シェア10.3%のClaudeが転換率で首位という組み合わせは、「カジュアル利用は少ないが、お金を払ってでも業務に使う人が多い」ことを意味します。事務所のツール選定では、総ユーザー数よりこの種の指標——課金ユーザーの多さ、企業導入の実績——のほうが参考になります。KPMGが27.6万人にClaudeを展開したような事例も同じ文脈です。
③エコシステム連動が事務所インフラの選定と一体化してきた。 GeminiはWorkspaceと、ChatGPT(OpenAI)はMicrosoft 365と結びつきを強めており、生成AIの選定はもはやグループウェア・メール基盤の選定と切り離せません。単体の性能比較ではなく「事務所がどのエコシステムに乗っているか・乗るか」から逆算するほうが、運用も契約もシンプルになります。
④「複数使い分け」はリスク分散だが、ガバナンスのコストも増える。 3社が拮抗する市場では、用途別の使い分けが合理的になる一方、事務所としては入力ルール・データポリシー確認の対象が増えることを意味します。使い分けを許容するなら、入力してよいデータの線引きをツール横断で統一しておくことが前提条件です。
実務家のアクション
- 業務利用を有料・法人プランに統一する:無料版の業務利用(特に広告付き)を所内ルールで明確に禁止する
- 選定基準を「シェア」から「業務適性の指標」へ変える:有料転換率・企業導入事例・データポリシーを比較軸にする
- 事務所のインフラと生成AIの整合を確認する:Workspace系かMicrosoft 365系かで、統合メリットの大きい選択肢は変わる
- 使い分けルールを1枚にまとめる:どの用途にどのツールを使い、何を入力してよいかをツール横断で明文化する
- 年1回の比較テストを習慣化する:シェア変動はサービス品質変化のシグナル。自事務所の代表的タスクで定点観測する