くらしの税金

暗号資産(仮想通貨)と税金——雑所得・総合課税の仕組みと損益計算を税理士が解説

ビットコインをはじめとする暗号資産(仮想通貨)で利益が出たら、原則として確定申告が必要になる。しかもその所得は「雑所得・総合課税」で、給与などと合算した累進税率が適用され、株式やFXのような分離課税・損益通算は現行では認められていない。ここが投資家の想定と最も食い違うポイントだ。本稿では、個人の暗号資産課税の全体像を現行制度に沿って整理し、2028年にも予定される分離課税移行の議論までを見通す。

暗号資産の利益はどう課税されるか(雑所得・総合課税)

個人が暗号資産の取引で得た利益は、原則として「雑所得」に区分され、総合課税の対象となる。国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱い及び計算書について」でも、暗号資産の売却・使用により生じた利益は、事業所得等の基因となる行為に付随して生じる場合を除き、雑所得に区分されるとされている。

総合課税とは、給与所得や事業所得などほかの所得と合算して課税所得を求め、累進税率(所得税5〜45%+住民税一律10%)を適用する仕組みだ。所得が大きいほど税率が上がるため、暗号資産で数千万円・億単位の利益を得た場合、所得税・住民税を合わせて最大約55%、さらに復興特別所得税を加味した実効負担が生じうる。これが「億り人」に重い税負担がのしかかると言われる理由である。

一方で、暗号資産取引を事業所得として申告できるケースはきわめて限定的だ。事業所得と認められるには、社会通念上「事業」と言える程度の営利性・継続性・独立性、人的物的設備、生計維持性などが必要で、平日は本業をもつ会社員が空き時間に売買している程度では、金額の多寡にかかわらず雑所得と判断される可能性が高い。「開業届を出せば事業所得になる」というものではない。

給与所得者の申告不要ルールにも注意がいる。給与を1か所から受け、給与・退職所得以外の所得(暗号資産の利益を含む)が年間20万円以下であれば、所得税の確定申告は不要とされる。ただしこれは所得税の話で、住民税の申告は別途必要になる。また「毎年の利益を20万円以内に抑えれば非課税」という理解は誤りだ。20万円判定は暗号資産だけでなくほかの雑所得(副業収入など)も合算して行う。

いつ課税されるのか(課税タイミング)

暗号資産の課税で最も誤解が多いのが「いつ利益が確定するのか」だ。日本円に換金(円転)したときだけだと思われがちだが、実際にはそれ以外にも課税タイミングがある。国税庁のFAQに沿って整理すると、利益(所得)を認識すべき主な場面は次のとおりだ。

売却(円転):暗号資産を日本円に換金したとき。売却価額から取得価額・手数料を差し引いた額が所得になる。

暗号資産同士の交換:ビットコインでイーサリアムを買うなど、暗号資産Aを手放して暗号資産Bを得た場合も課税対象になる。円に換えていないから「含み益」だと考えたくなるが、税務上はその交換時点でいったん利益が実現したものとして扱う。外貨から別の外貨への交換で為替差損益を認識するのと同じ考え方だ。ここは投資家の直感と最もずれる部分で、アルトコインを頻繁に乗り換えた年に、円を一切引き出していないのに多額の所得が生じる、という事態が起こりうる。

商品・サービスの購入(決済):暗号資産で買い物をしたとき。決済に充てた暗号資産の時価と取得価額の差が所得になる。

マイニング・ステーキング・レンディング等の報酬:新たに暗号資産を取得した時点の時価が収入金額となり、必要経費(電気代等)を差し引いた額が所得になる。エアドロップやハードフォークで時価のある暗号資産を取得した場合も、取得時点で所得を認識する。

つまり「円に換えなければ課税されない」は誤り。暗号資産を手放して別の価値(別の暗号資産・モノ・サービス)を得た時点で、そのつど損益を計算する必要がある。

損益計算の実務(総平均法/移動平均法・損益通算不可)

所得金額は「収入金額 −(取得価額+必要経費)」で求める。問題は、同じ銘柄を複数回に分けて別々の価格で買っている場合の取得価額だ。ここで用いるのが総平均法移動平均法である。

総平均法は、その年に取得した暗号資産の取得価額の合計を数量合計で割って、1単位あたりの平均取得単価を年単位で求める方法。計算は簡便だが、年末にならないと単価が確定しない。移動平均法は、取得のつど平均単価を計算し直す方法で、手間はかかるが取引時点での損益をより実態に近く把握できる。

評価方法は暗号資産の種類(銘柄)ごとに選択でき、選んだ場合は「所得税の暗号資産の評価方法の届出書」を提出する。届出をしない場合の法定評価方法は総平均法だ。いったん選んだ評価方法は原則として継続適用が求められ、変更には承認申請が必要になる。国税庁は移動平均法用・総平均法用それぞれの計算書(Excel)を公開しており、実務では取引所のデータをこれらや損益計算ツールに取り込んで集計するのが一般的だ。総平均法と移動平均法の具体的な計算例や有利不利の考え方は、姉妹記事「暗号資産の損益計算」で数値例を使って詳しく解説している。

そして現行制度で最も重いのが損益通算・繰越控除ができない点である。暗号資産の損失は、給与所得や事業所得などほかの所得と相殺できない。相殺できるのは同じ雑所得の範囲内に限られ、その年の雑所得内で引ききれなかった損失を翌年以降に繰り越すこともできない。株式や投資信託(上場株式等)が20%の申告分離課税で、損益通算や3年間の繰越控除が使えるのとは対照的だ。強気相場で利益を出した翌年に暴落で大損しても、前年の税負担は取り戻せず、損失は切り捨てになる。この非対称性が、暗号資産投資家にとって現行税制の最大の泣きどころとなっている。

暗号資産の課税判定フロー図。取引→手放して価値を得たか→損益計算→事業実態の有無→原則は雑所得・総合課税で申告(損益通算・繰越控除は不可)

税理士の視点——分離課税移行の議論と実務の留意点

この「雑所得・総合課税・損益通算不可」という枠組みが、いま大きく動こうとしている。令和8年度(2026年度)税制改正大綱(2025年12月19日与党公表、同26日閣議決定)に、暗号資産を株式などと同様の申告分離課税(税率20%=所得税15%+住民税5%、ほかに復興特別所得税)とし、3年間の繰越控除を導入する方針が盛り込まれた。これを受けた所得税法等の改正法は2026年3月31日に成立している。

ただし、ここは正確に押さえておきたい。この分離課税はまだ施行されていない。適用は「金融商品取引法等の改正法の施行日の属する年の翌年1月1日以後」とされており、暗号資産を資金決済法上の「決済手段」から金商法上の「金融商品」へ位置づけ直す法改正の施行とセットになっている。金商法等改正法の施行時期を踏まえると2028年1月1日からの適用が有力だが、スケジュール次第で前後する可能性がある。しかも対象は登録業者を通じた「特定暗号資産」に限定される見込みで、細目は今後の政省令に委ねられている部分が多い。

したがって現時点(2026年7月)の実務では、依然として雑所得・総合課税・損益通算不可の現行ルールで申告するのが正しい。「もう20%になった」「損失を繰り越せる」と早合点した申告は誤りだ。制度移行を見据えるのは重要だが、施行前の取引に将来の分離課税ルールは遡って適用されない。この「決まったが、まだ効いていない」段階を投資家に正確に伝えることが、いまの税理士の役割だと考える。

制度論として、分離課税化は投資家の予見可能性を高め、暗号資産を資産形成の選択肢として正常化する意義が大きい。一方で、暗号資産同士の交換や決済のたびに損益計算が必要という取引の煩雑さ自体は分離課税になっても解消されない。むしろ対象が「特定暗号資産」に絞られれば、DeFiや海外取引所・NFT等の扱いが現行の雑所得ルートに残る可能性もあり、制度が二層化して実務がかえって複雑になる懸念もある。移行後の詳細設計を注視したい。

実務家・投資家のアクション

  • 全取引の履歴を年単位で確保する:売却・交換・決済・報酬受取をすべて記録する。円転していなくても暗号資産同士の交換は課税対象になるため、取引所・ウォレットのデータを漏れなく集める。
  • 評価方法を意識して届出を検討する:届出なしなら総平均法が自動適用される。移動平均法を使いたい銘柄があれば期限内に届出書を提出し、以後は継続適用する。
  • 20万円ルールを過信しない:ほかの雑所得と合算して判定する。所得税が不要でも住民税の申告は別途必要になる。
  • 損失は切り捨てになる前提で税負担を管理する:現行では損益通算・繰越控除ができない。利益が出た年は納税資金を確保し、翌年の暴落に備えて年内の実現益・実現損のタイミングも検討する。
  • 分離課税の「施行前」を正しく理解する:2026年時点の申告は現行ルール。制度移行の情報は追いつつも、施行日・対象範囲が確定するまで実務は変えない。
  • 高額の利益・複雑な取引(DeFi、海外取引所、NFT等)がある場合は、早めに暗号資産に詳しい税理士へ相談する。

出典

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